MEMS-Sensor

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用し、超小型の触覚センサを開発してきた。下図にその動作原理を示す。この触覚センサはSi基板の上に極小マイクロカンチレバーを複数個作製し、さらに全体を弾性体(エラストマ)で覆う構造である。この弾性体の上部に外力を与えると、弾性体が変形し、同時にカンチレバーの傾斜角度も変わる。電気的にこの傾斜角を計測し、適切な演算を施すことで、弾性体上部に作用する外力を3軸(圧力+剪断力2軸)として計測できる。現在の試作センサは直径1mm、高さ1mmで実現している。

MEMS触覚センサにはカンチレバー構造を三つ配置することで、センサの突起部先端にかかる外力を計測できる。下図に実際のサンプルでの計測結果を示す。各センサの出力をei (i=1〜3)として、あらかじめ各センサに作製する構成マトリックスMと掛け合わせることで、センサに対して垂直な圧力とセンサに沿う方向の2軸の剪断力としてFk (k=x,y,z)を得る。下図に示すように、それぞれの軸方向に作用させたが威力を正確に分離して計測できることが分かる。下図では圧力で80gf程度の外力を示しているが、500gf程度までは線形性を保つ。また、PDMSが外力を変形に変換するトランスデューサであるが、現状のPDMSの硬度は人間の皮膚と同程度の硬度で設計している。この硬度を変化させることでMEMS部分の構造を変更することなくダイナミックレンジを変化させることが可能である。

この試作センサの感度は極めて高い。日本の紙幣には偽造防止のためにインクで印刷された高さ30μm,幅500μmのスリット状の構造が設けられている。その表面をヒトがなぞると紙幣の真贋を見破ることができるが、同様にMEMS触覚センサでスリット部分をスキャンすると、そのまま検出できる。従って、高い強度と感度を両立させたセンサである。

さらに、このセンサを産業用ロボットに応用する上で有効な機能として、光学近接計測機能も有している。生産ラインにおいてロボットが物体を掴むためには、あらかじめカメラなどで環境を計測し、対象物体近傍にロボットハンドを移動させたのち、指を物体表面に接触させる。その際に接触直前の近接情報は安定した把持のために極めて重要である。本センサでは制御が容易な光を利用した方法を採用し、距離検出の手法を検討した。

光検出の原理について述べる。MEMSセンサ基板のSi でバイス層には、金属半導体間の仕事関数差により空乏層が存在すると考えられる。触覚検知のように端子B 間の直流抵抗を測定する場合には、Si3N4 薄膜は絶縁膜として振る舞うため,NiCr ひずみゲージ抵抗の変化のみを検出する。一方、端子間に交流信号を印加した場合、Si3N4 薄膜はキャパタとして振る舞うため、Si 基板の物性値変化の影響を容易に受ける。端子間の等価回路は、ひずみゲージ抵抗と基板の並列回路で概ね近似でき、光照射によって半導体 Si 層に生成したキャリアにより、Si 層の抵抗 RSi および空乏層容量 CD が変化する。つまり、センサへの入射光量を端子間の交流インピーダンス変化として検出することができるため、端子間で計測する信号の交流/直流を切り替えるという単純な方法で近接覚と触覚の2つの情報が検出可能となる。従って、下図 に示すように触覚センサの傍に投光用のチップLED を配置し、物体表面で反射してセンサに入射する光の強度が物体センサ間の距離により変化することを利用し、交流計測モードで接触までの距離を検出できる。同時に同じ回路を直流モードで計測することで接触後の外力を計測可能である。現実的には同一センサに切り替え回路を設けるよりも、センサのパターンとして触覚センサと距離計測センサを独立に設けるが、それぞれに個別のプロセスを設ける必要は無く極めて生産性が高い。


本プロジェクトで開発した超小型多軸触覚センサは、そのサイズと多軸計測能力、さらに、センサ密度や計測範囲等、センサの特性をコントロールできる事から、以下の様な様々な分野での応用が期待できます。

•工場でのトレーサビリティに対応した工具や検査のできる搬送ベルト、

•家庭でのドアノブや手摺りに埋め込まれた日常生活行動モニタセンサや筆跡記録筆記用具、

•交通では滑りを計れるインテリジェントタイヤや握り具合を制御するハンドルインタフェース、

•医療分野では手業の計測グローブ、

•日常における新しいヒューマンインタフェースデバイス等

本センサの開発情報は立命館大学 認知科学研究センターに設けられた力触覚技術応用コンソーシアムにおいて、定期的に実施する研究会において公表している。

また、本稿のMEMSに関する図面は共同研究者である新潟大学 寒川雅之 准教授から提供を受けた。